もう少し生きてみよう（3.11によせて）

東京へ行ってきた。 帰りのバスの中、常磐道を北上中。 やる事もないので少し書きます。 今日は大切な人の個展を見る為に立川まで。 素晴らしかった。 手紙のやりとりは頻繁にするが、会うのは実に五年ぶりだった。 帰りに吉祥寺に寄った。 青春時代を過ごした十数年前とは当然ながら随分変わってた。 看板もない思い出の定食屋はまだやっていた。 相変わらず汚くて、料理も可もなく不可もなくで微笑ましかった。 井の頭公園を少し歩く。 ベンチに座りぼっとする。 涙をぐっとこらえる。 独り言も。 彼女はまだこの街で働いてるのかな？と、あの雑貨屋さんが頭をよぎる。 帰りは東京駅から高速バスで一時間も走ればビル群とおびただしい車は無くなり、春の田植えを待つ茶色の田園風景が延々と。 昨晩の雨で田んぼにできた大きな水溜りには夕焼けを背にした淡い曇り空が見える。 美しい。 と思えた。 ほんの少し。 あの日から自然の単純な美しさを素直に受け入れられなくなっていた。 空を見ても、そこには目に見えない何かが潜んでいるのでは？

と「美しい」とは別に「？」がついてまわるようになった。 海へ行っても、その海で美しい生き物達を見ても。 山へ行っても、その山で綺麗な草木を見ても。 以前なら何の躊躇もなく食べれた釣れたての魚も、もぎ取った山菜も、

海へのダイブも山での深呼吸も。 頭の片隅に「？」が常にある。 正直鬱陶しいんだ。 本来なら美しいもの、美味しいもの、それらを純粋に心底に100で感じられない現状に甚だ違和感を感じる。 「これはもしかして？」と不幸の選択肢が1つ増やされている事に気付く。 これらは以前の私にはなかった感情である。 そしてここへ来てのコロナ…。

それは初めは小さな不安、小さなストレスに過ぎなかった。 でもこれらは蓄積するのです。 そしてこの蓄積は日常の全く関係のない不安と結び付き膨張するのです。 ここ最近の周囲の人達を見渡しても、そんな風に見えて仕方ないのだが･･･。 あの日からの月日が徐々に私達の心を蝕んでいったかのように。 みんな、みんな、みんな、ギリギリの所でなんとか踏みとどまっている。と。 毎日、毎日、毎日、「詰まらない」ってぼやいてしまう。 ため息をつきながらの出勤は途中でエンジンを切ってそのまま永遠に眠っていたい気持ち。 帰りは帰りで渋滞する車の中で人生ってくだらないって思えてきて、思いっきりアクセルを踏み倒したくなる時だってある。 殺したいくらい憎い奴の事だけ考えて１日終わってしまう日常。 死んでしまいたいくらいの苦しみ。 消えてしまいたいくらいの悩み。 自分の歩んだ道の誤りに気付いて絶望的な気持ちで就寝。 それらを誤魔化すように何も知らないフリを演じる。 いつしか考えずして生きるように。 だから常識も一般論も有り難く頂戴するようになる。 そして眠れない。 一概にではないが私達の日常はその繰り返しでしかない。 その合間合間に僅かばかりの光が見えるから、その光だけを頼りに生きてみる。 しかし、そこに追い討ちをかける巨大な、もしくは無数のモンスター。 この地の未来が真っ暗過ぎて何も見えない。見えてこない。 目隠しさせられ高層ビルの屋上から屋上への綱渡り。 私は終焉が目の前にぶら下がるこの感覚に身震いするのだが･･･。 でも空を見上げてはあなたに繋がれと願う気持ちは揺るぎない。 よくやってるよ。 よく頑張ってると思う。 そんなに頑張るなよ、って思う。 素晴らしい絵描きさんも、雑貨屋のあの人も、知らない土地で歯を喰いしばり懸命に暮らす同級生も、裏切られても笑顔を絶やさず大切な人を守る彼女も。 私が食べた物が私の肉体を形成するみたいに、あなたに出会えたあの思い出や記憶が私の心を育む。 過去に僅かながらだけど過ごしたあれらの時間。

もう誰にも見れないあれらの時間が、今こうして見える私を作り上げてる。 だからね、こんな世知辛い世の中でももう少し生きてみようって思えるんだよ。 あなたがいるから。 あの頃あなたが見せてくれた一瞬の笑顔が、回り回って明日の私の笑顔になるんだよ。 あなたがいてくれたから。 あなたがいてくれたからもう少し生きてみようって思えるんだよ。