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poetry

 

「北風」

遠ざかるあなたの姿は眩く霞む。
それは肉眼で見えた北風。
想いを馳せても透明で転んでばかり。
どんなに想いが溢れても私はあなたを知らないこと。
日々知らないこと。
刻々と。
知らないこと。

手に入れる事のできない憧れ。
手を伸ばしても届かぬ光芒。
月が明るい夜に見えなくなる星と星。


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~  4歳で星になったkちゃんに捧ぐ  ~



流れ消え行く星の欠片は
天から届いたあなたの何か

ついえぬ慈愛の声か

光年辿って輝く涙か

刹那に見る終古の笑みの中
あなたに代わって明日も目覚める

目覚めの先にある
陽の光の中に
あなたを見つけ
木枯らしに舞う葉の葉脈に
あなたを見つけた

天から見下ろす
あなたの視線を
砂浜の一粒からも感じれば
「1人じゃない」と声がした

流れ消え行く星の欠片は
天から届いたあなたの何か

 

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「憧憬」

 

あなたが涙した昨日は、私が作ってしまった住日。
あなたが嘆いた明日は、私が妥協した行先。

あの日。
あなたの船出を恩恵した私の冴えない魂から離脱した女々しさが、

今あなたの心憂い日々の開闢だった気もする。

殺伐とした張り出しから身を乗り出しては仰ぐ、

蒼き海洋は、

もしやするとあなたに捧げたかった一つの遺産なのかもしれない。

若しくはその隣に居るのがあなたであって欲しかった、

という単なる憧憬に過ぎないのか。

ぐっと削り取ったあなたの眠りを一体その他の何に当てたというのか。
瞬刻、

私の面影を掠めたりもするのか。
それともあなたと一切の因果もないあの死臭漂う老いた男を

どうしても考えなくてはいけない時間を呪う夜長か。

いや違う。

きっとまた異形の水子が脳髄をよちよちと這っているのだろう。

だからそんなにも自身の吐瀉物に塗れては不眠と罪で片目を失うのだ。

毛羽立った図太い麻糸できつく縛り上げられた小陰唇の奥で、

閉じる事なき子宮口の円周率は黄金螺旋。
カマキリの卵にも似たこぼれ落ちる片目を片手に、

そこから湧き出た無数の子を糧にし生きろ。

 

 

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「友」

 

まだ影を追っている。
みすぼらしい父親の影を。
その枝のような細い足で。
ふくらはぎに膨れ上がった粘土のような

僅かな筋肉に目一杯の信頼を寄せて。

パーカーにジャケットを羽織ったように

格好付けた言葉の羅列で隣人を騙せよ。
蔦のようにつるんだ沢山のお友達が宝と叫べよ。

もう一人亡くなる。

泣き言はもう沢山。
お決まりの決めゼリフは西部劇さながら。
友情ごっこはもう沢山。
早く父親のようになれよ。
悲しむ素振りが上手なのは反復練習の賜物。

骨壷に祈れ。
その胡散臭い真白な陶器に涙とヨダレをこぼせよ。

 

 

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「花火」

 

火花を散らし虹色の光の終わりには

火薬と夜露の香りがくたびれた葉桜の木々に染み付いた。
夕暮れ漕いだブランコはベアスキンを被った

英国の近衛兵のように直立し関せず。

君はまた一つ小さな魔法を手に取った。
先端で光る粒は死の間際に触れるという

太陽の温もりのよう。
その向こうに何を見ているのだろう。
うつむいた横顔と首筋が

六月の真珠のように美しかった。
殻を破ってすぐのヒグラシが

エメラルドグリーンに透き通り、

年老いた葉桜の異様に伸びた左手をよたよたと伝う。

木々の頂きからは二人の教室がよく見えた。
校庭には転がるボールと先の欠けたトンボ。
石灰にまみれたライン引きの行末は

白と黄色のドリッピング。
プールの波打ちと非常階段の傲慢さ。

どうして手を差し出さなかったのだろう。
形振り構わず砕ける程その手を握らなかったのだろう。

火種が静かに目を閉じながら地に落ちた。
魔法も僕らも終わりだと知ったんだ。

 

 

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「小さな足場のあなた」

 

風花の下、花壇のプリムラは鬱蒼と茂る。

倍に彩る星々が象ったコンポジションは

ジョアン・ミロが夢見た〇△口。

丘の上にそびえた街並を見下ろせる

小さな足場からあなたは、

虚ろな瞳で僅かに見える水平線をなぞっている。

 

ふと思う。

このまま終わりを迎える自身の一生の空しさを。

犯した大罪の重荷に潰されそうで震える膝が

他人のもののようにさえ思えるのであればどれほど楽かと。

笑っていられるのも今のうちだと脳みそで思いながら、

笑顔でいるあなたのそれは、

果たして笑顔か、

はたまた地獄か。

 

万華鏡は黒色から黒色、

そしてまた黒色とまるでマブタを閉じた時のあれに似ている。

23歳の愚かしい自分を今更責めても何も起こらず、

返ってくるものは憤り。

目の奥の頭痛。

僅かに見える水平線の彼方へその身を投げる。

 

 

 

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「残香」

 

海辺で上がった群青の煙は

薄手のカーディガンの編み目をぬい、

這うようにしては、

死した珊瑚のように白いあなたの皮膚に付着した。

それはまるでチスイビルのよう。

この底知れぬ憂戚だけの冷淡な畢生において、

あの日あなたと見た光だけが私の中で唯一、

初恋が実った中学生のスニーカーのように

そう、唯一、人の温かみを放ってる。

あなたの短く艶やかな髪の毛は少しだけ地に落ち命のよう。

 

手のひらに残るはあなたの香り。

耳元に残るはあなたの一言。

 

さようなら

 

 

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「今朝も」

 

穀雨の後の出会いから処暑の別れに至るそれは、

まるで瞬きの間であり、

光がきっといつまでも終わらぬ時間と思わせてくれた

夢だったかのようだ。

 

「ハレルヤ」と叫ぶのはあなただったのか。

それとも私か。

CohenかBuckleyか。

 

あなたを笑わせた海岸に幾度となく出向いても、

そこにあるのはいつも夜警のように白けた白波の残像が

幾重にも寄せては返るだけだった。

シャツの袖が蛍のように濡れている。

波、雨、涙か、Xと刻印され閉ざされた両目では分からない。

 

どうでもいい。

 

でも寒い寒い。

 

羽毛のような細かい繊維で出来た脆すぎる絆。

イビツな心象を取り替え、小さな肖像を握りしめ。

街で会わぬよう祈る。

触れて終わりを迎えるの。

何も出来なくなってしまったこの手は、足は、

あなたを失望させるの。

 

今朝。

あなたの夢をみたんだ。

今朝もあなたの夢をみたんだ。

 

 

 

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「姿勢」

 

今も触れると痛むあなたという傷。

忘れられぬ朝。

日々。

 

簡単だった。

私を捧げればいいだけだったから。

あなたの動脈の鼓動に身を任せ、

夏草の香りの中、

関節のきしむ音だけが 私に艶やかな

一瞬の放光をたぎらせた。

虚ろ過ぎる瞳のその奥には

数千のあなたがいる。

何もかも失おうと構わないくらい

煮えたぎるものは、

私の心に赤々と灼熱する

鉄の棘を螺旋に巻きつける。

 

あぁこんな想い。

 

こんな想いを与えてくれるあなたはやはり、

私があなたを愛し続けてしまう意図を、

その細胞にて知っているのですね。

 

あぁこんな想い。

 

この想いの為に身を滅ぼそうとも、

また何の躊躇もなく明日を生きてしまう。

宙に浮いたもう一人の私がこの地に

足を着くこの肉体をいくらでも利用する。

宙に浮いた私は永遠だろうか。

肉体が朽ち果てようとも、

もう一人の私は永遠だろうか。

そうならば私はきっと止む事のない

永遠の懺悔をするだろう。

自分を半分殺しても生きていけるという事に対しての。

 

 

 

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「呼んで」

 

小さな死から目覚める。

冥府の彼方、

一筋の光から聞こえてくるのはあなたの声だった。

新雪のように儚く箔のように脆い。

遠くの木漏れ日の中、

精霊達の微笑みのよう。

 

まん丸な声だ。

 

空間も震えぬ細微な声だが、

私の元に着く頃には大きな囲いとなり

全身を包み込んではやがて縮み、

キャメルの毛布のような優しさで芯を暖める。

 

いつだったか、

業の底辺から抜きん出た飴色の手は、

その長い指を私のふくらはぎに絡ませては

何重にも濃いアザを刻んだ。

何十もの手が私を離さない。

もがいても、

もがいても抜け出せない。

だからずっと耳を澄ましていたんだ。

ずっとそんな声に出会いたかったんだ。

影も形もない、

触れられもしないあなたのたった一声だけが

私を月の裏まで、

この地のコアまで、

果ての木漏れ日まで連れて行く。

飴色の手から解き放たれた私の髄液は

礼文島の玄武岩から

石垣島の墓地まで縦横無尽になれる。

 

だからもう便箋なんていらないんだ。

全てが綴られた700枚の手紙さえも、

私の名を呼ぶその一声の前では無色になってしまう。

 

隣にいてほしい。

あらゆる目覚めをその声でしてほしい。

抱きしめる。

声を愛しめる。

 

 

 

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「火葬のない御霊」

 

昨夜君が泣いているのを見た。

とても遅い時間、

冷たい石の上で腹を抱え膝を着きうつむいて。

垂れた髪が数本、

涙で頬につたう。

剛鉄の真っ青な鉄板が

今にも君を押し潰そうと息巻く。

そんなにうつむいていたら瞬く間にこの鉄板が

深海よりも深い海にて君の処刑を執行してしまう。

流し過ぎた涙は地下を渡ってオホーツクまで辿り着くだろう。

 

後悔だけがこれからの君の生きる糧。

絶望だけが君の希望。

どうか開き直って生きてみたらいい。

時間と共に忘れゆくこの優れた性質に委ねればいい。

単純に歳をとってごまかせばいい。

 

それにしても火葬のない御霊はどこへ行くのだろう?

きっと君の夢の中で生き続けられるのだろう。

その涙の一粒一粒に宿るのだろう。

 

ずいぶん痩せてしまったね。

だけど時折見せる笑みはあの頃同様、

綺麗に整った歯の並びを覗かせる。

足は動くかい?

今すぐ走れるかい?

さぁ、

君を裏切ってきた全ての父親から遠ざかろう。

彼らは君の深い傷の膿を求めてる。

その濃厚な味わいを。

 

母の子宮の温もりを感じながら母乳の沼へと急ぐがいい。

君の子宮を天に掲げて。

 

 

 

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「過度の自由はこれを齎す」

 

分別。分解。背の順。そしてレベル分け。

パックに包まれマーケット送り。

値札を付けられ生鮮食品売り場に陳列。

箱一杯の林檎の様にギュウギュウ詰め。

私は一番下側。

日の光さえ届かぬ。

その他全ての林檎達の重みが肩へとのし掛かる。

 

私は此処で死に行く夢を見ながらも100まで生きる。

死してなおも100まで生きる。

 

君はめっきり変わってしまい、

私の事を分別。分解。背の順。そしてレベル分け。

全員軍曹並みに偽りの黄金バッヂを施し、私に指示を出す。

民主主義と自由の国に万歳。

おいそれします。

 

 

 

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「部屋」

 

一辺を5として。

そんな形をした正方形の中で二人は日に二度顔を合わせる。

 

私を君の潜むような闇全てに配置する。

秘密は何一つもったいぶらず吐き出した。

こっちからあっちに行くよう仕向ける。

 

答えは出た。

 

何もかも一致した。

 

逃げ場のないどさくさの接吻。

トゥーという音とキィーという音が

右から入っては左へと抜けていく。

束が飛ぶように売れては肩に力が入る。

 

何億倍もの圧力。

 

革命、嫉妬、飲み干された自我。

焼き砕かれた魔女の首の破片を2,3粒。

君はぱっくり割れた私の傷口に唾を吐く。

 

見えるはず。

 

右耳の後ろから溶けてなくなる様を。

 

六日を過ぎる頃には前方に佇んでいた

微妙な明度のアクリル板が破れて、

半疑の言葉を用いて息遣いを整える。

そこで私達は自らの心に潜む無限の空虚を埋めるべく

更なる思い出と過去を積み上げる。

この空虚を埋める「思い」や「過去」に二人の男と女は

これからどれだけの嫉妬を抱く事ができるだろう。

 

一辺を5として。

そんな形をした正方形の中で今日の二人はずっと顔を見合わせる。

 

 

 

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「ブラインド」

 

目を閉じて形が見えたのはほんの2秒。

あとはずっと真っ暗闇。

街頭に合わせて悲しい歌が繰り返す。

捨てられた人形達はその笑みを崩さない。

日中。

照らされ続けた石道は深夜の雨で

本来の匂いを取り戻す。

最後の限界を越えた苦しみに満ちたその目で見た天井は

月の手前まで伸びている。

白いブラインドはミニマルの如き変貌し

黒と灰色のレリーフへと移り行く。

隙間に見える銀色の光沢は空間概念に基づいた

フォンタナのナイフの切込みだ。

彼女はたった一つの言葉をぽとりと落とし

永遠の眠りへと出て行った。

 

 

 

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「私は知らない」

 

確かに。

 

君の言うような才能はない。

しかし、私は断続という力を持続している。

 

お金もない。

でもタダで存在する目に見えないもの全てを手に入れた。

 

私には主任様のような技術はない。

でも断固たる思考がある。

 

私は政治を知らない。

でも理想の国家は描ける。

 

私は東大生の桜庭君より数学を知らない。

だけど公式に並ぶ数の配列の謎を解体できる。

 

私はニューヨークに住むあの娘のように英語なんて話せない。

でも言語の裏に潜む本質を見い出した。

 

私は経済も化学も知らない。

おかげで惑わされる事なく宇宙の真理を漂える。

 

私には夢がない。

叶って終わる夢を想像するより、目の前の壁を登るのに手一杯。

 

結局私は何も知らない。

だけど自分が何も知らないという事を知っている。

 

 

 

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「世界の全てはあなただった」

 

赤と白と黄色の配線を通して映る

あなたの真剣な眼差しとその声に

私は再び想いを馳せる。

痛々しい傷痕はより美しくあなたを現す。

困難に立ち向かうあなたに付いて行けず、

遅れをとっては恐れをなし、

それらを苛む事も出来ぬ自分を苛む。

国境によって一度は大破した私達ではあるが、

今や会瀬の日よりも数倍明るいこの地の光で

目まぐるしく再生し、

それらは断固たる根を地に張る。

強靭なるその根であれば

どの地に這わせようと気高く築く。

 

あなたへの想いを綴れば真白なる辞書をも

容易に埋め尽くせよう。

あなたが暗闇の中、

更に盲目になろうとも、

私が三原色を用いて七色に変えその路を照らそう。

あなたがあまりの騒音に耳を塞ぐ時、

音階とリズムはやがて広野を渡り

多大なる海原を越えて周囲の酸素を揺らそう。

あなたの持つかの有名な高度電子機器のメモリーさえも

表現の域に退化した私の詩歌で溢れんばかりだ。

 

地下室と教会での密会はもうおしまい。

多重のカーテンをも貫く月明かりの下、

オレンジの木々を目印に万人を迎えよう。

そこで私達は十分なる歓喜を蓄え鋭く唸る。

 

夜が明ける。

そう、もうすぐ夜が明ける。

日の出と共にフユシスの如く一つになろう。

世界はあなたに敗北しているのだから。

 

 

 

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「一抜け」

一抜けた。

一通り頑張ってみたけどもう降参。

私はキリストなんかじゃないし。

お先は真っ暗闇。

残念だけど、関係ないね。

 

いやいや。

 

理解、困難極まりない。

聞く耳ないなんて絶望的。

もう何もしない。

そんな慈愛は持ち合わせておりません。

私は上の空。

目は合わせても何も話さない。

 

その様。全く笑える。

自信たっぷりに意見の応酬。

挙句の果てが流血沙汰。

 

ねぇねぇ。

 

神様もそっぽを向いてサッカーゲーム。

そして私の建築に涙する。

君達の為にお家だけは残してあげるから。

きっと報われないんだろうけど。

 

あぁ。もういいや。

 

 

 

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「重」

 

あの巨大な、巨大過ぎるキノコ雲は父を奪った。

我々の偉大なる父を。

過去の勇敢なる戦士。

到底数え切れない戦士達の屍の上、あぐらをかくのは誰。

我々は皆凄惨な戦闘の生き残り。

ポル・ポトの末裔。

凄まじい女の死に顔はダイアモンドの眩い輝き。

中絶された胎児達の肉片と血で生きる少女。

戦火の中を彷徨っている。

暗黒の日にうろたえながら。

法王に縛られた永く眩しい人生の汚点。これは汚点。

悲劇。悲し過ぎる。

神がひいきした卵子。

 

そう、もう顔をあげて聖書を持つ事さえ許されない。

そう、もう正面を向き人間様を見る事さえ私にはできない。

 

偉大なる父よ、あと何人許すのだろうか。

十字架の重さは増すばかり。

 

 

 

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